2022年8月10日水曜日

2CVのフレーム修理

 

シトロエン2CVが来た。80年代最後の方ので、ポルトガルで生産してたんだっけ?
フレームにひび割れが入ってしまったので熔接修理のご依頼。普段から実用で使っているらしく、13万km程度の走行距離。
リフトで上げてみようと思ったら、幅が狭すぎてリフトに掛からないw


どうしたものかと考えたが、工場を探したら鉄骨が出てきた。これを掛けて上げてみる事にした。

なんとか上がったw
本来ならやっちゃいけない方法かもしれないが仕方がない・・・

亀裂は右前のサスアームのピボットを固定してる部分に入ってる。
しかしサスは不思議な構造だな・・・

あ~、結構重症だ・・・
持ち上げたらエンジンの重みで開いてきてしまったw
当初は亀裂が広がらない様に下側に補強を入れればいいと思っていたが、とてもそんなのでは間に合わない。

リフトで上げての作業は諦めて、馬に掛けてエンジンをジャッキで支えて作業する事にした。

足回りを外してみる。
サスのピボットはテーパーローラーベアリングが入っていて、ちょうど2tクラスのリアハブによく似た構造になってる。ゴムのブッシュの様なものと違って、こういった構造だと高周波の振動はそのまま伝わるので、疲労破壊の原因になるのかもしれない。
しかし面白い構造だ。ピボットのシャフトはステアリングラックユニットが入っている。スイングしてもトー変化が小さく収まるのだろうか。

ピボットシャフトを固定するマウントベースの前後でフレームが切れている。
千切れる寸前って感じ・・・

持ち主が自ら直そうと熔接しようとしたらしく、溶け落ちて穴が開いてるところもあった。
鈑金が薄すぎてアーク熔接では難しいよな・・・

左側は異常はなく健全な状態だった。

とりあえずピボットシャフト&ステアリングラックユニットを外す。
持ち主曰く、一度これが折れてしまって右の前輪が脱落して、交換した事があるとの事。フレームの割れはその辺りが原因だったのかも。

思った以上に重症だ・・・

どうやって直したものか・・・

左側は問題なし。
しかし驚いたのは2CVのシャーシって新品が今でも作られているらしい。
https://mcda.com/accueil/6097-plate-forme-ezinguee-traitement-cataphorese-modele-berline-lot-bouchons.html
意外と安い気もするが、日本に持ってくるにはいくらになるのだろうか?
しかし車台番号を職権打刻してもらうには申請がとても面倒・・・
そもそも全部バラバラにする勢いになるから、とんでもない工数になりそうだw

とりあえず破れてる部分を斫ってみる。

ピボットシャフトを固定するブラケット部を取り外した。
フレームはブラケットの前後で割れてしまって、下側の皮一枚でくっ付いてる状態だった。
脱落する寸前だw

中を覗いてみると内側にも亀裂が出来てる・・・

とりあえず内側の亀裂を熔接するために表側を切り開く。

TIGで熔接する。
狭くて姿勢が悪いのと、錆びもあって非常にやりにくい・・・なんともお粗末な熔接痕になってしまった・・・orz
フレームは0.7~1㎜の厚さの鈑金で出来てる。この手のものにしては、かなり薄くて華奢な作りだ。
内部は大分錆びてはいるが、意外と錆は進行していない。案外質のいい鉄を使っているみたいだ。同時代の国産車ならザクザクに錆びてしまっているだろう。

1㎜厚のSPCC板を切り出す・・・

曲げる・・・

現物合わせで加工する・・・

貼り付ける・・・

継ぎはぎ・・・

内部に防錆塗料を吹いて開口部を塞ぐ。
作業姿勢が悪くて熔接しにくい・・・

残りの欠損部を作る・・・

仮組して位置決め・・・

あとはサポートを熔接するだけ・・・

その前に防錆塗料を塗っとく・・・

サポートを熔接。これでなんとかなった・・・けど、補強入れないと心配だ。

L字のアングルを加工して補強を入れた。やっと熔接作業が終わった・・・
こうしておけば応力は分散して、また割れる事もなかろう。

防錆塗料を塗っておく・・・

黒塗りする。なんとなくそれらしくなったかw

今回切り取った破片がこれ。
切った張ったの現物合わせの熔接作業だった。
実作業時間より段取りを考える時間の方が長かった。よく考えて作業しないと面倒な事になるし、取返しの出来ない事態にもなりかねない。

足回りを組んでやっと馬から降ろせた・・・


面白いのがミッション後端のマウントはサスのピボットシャフトに付いている。
よくよく考えてみると駆動トルクの反動が直接フレームに掛からない様になっているんだな。
華奢なフレームで大丈夫なのは、こんな工夫があるからなのかもしれない。

サイドスリップを確認したら規定内に収まっていた。
仮のウインカーを適当に付けて試運転に行ってみた。
ちゃんと真直ぐ走ったw
2CVって初めて運転してみたが、独特のフニャフニャな乗り心地が面白い。
なんとなくスバル360に似ている。フロントサスはひっくり返すとよく似たレイアウトなので、スバルは2CVもよく研究したのだと思う。
ちゃんと走る事は確認できたが、ステアリングホイールのセンターがずれていた。
外す時に合わせマークは付けていたのだが、どうやら最初からずれていた様だ。
もう一度ステアリングシャフトを抜いてスプライン一個分ずらしたらセンターが合った。手間掛かったなw

フェンダーの取り付けはちょっとコツがいるらしいので、持ち主にお願いしたw

やっと完成w
イレギュラーな修理方法だったが、クルマとしての残りの寿命から考えて必要十分なんじゃないかと思う。いくらでも費用を掛けられる訳でもないしねw
これからも元気に走ってくれればと思う・・・



5 件のコメント:

  1. この一か月ご無理を承知で大変な作業をお願いしてしまいまた、お伺いして快く不意の代車までのご準備、ありがとうございました。
    やはりステアリングまで手を入れてくださったおかげかガッシリした手ごたえが戻ってきたようです。今後のアドバイスまでいただいて、お邪魔している間のお気ずかい、久しぶりに楽しく思いました。
    たいへんお世話になりありがとうございました。
    また何かありましたらよろしくお願いします。

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    1. どうしたものかと途方に暮れそうになりましたが、なんとかなってよかったですw
      なかなか見る事がない車種なので勉強にもなりました。
      また何かありましたら、お声がけください。
      ありがとうございました。

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  2. スゴいです。職人技とはこのことですね。見応えもさることながら、その工夫と作り込みはお見事です。そして各部の考察が深いです。その解説と併せて2CVの奥深さを知ることができました。
    通常フレームが折れたり割れたりすると寿命とされますけど、このようにしてまた路上復帰されると嬉しくなりますよね。

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    1. 切った張ったの作業で、職人技というにはちょっと恥ずかしいものがありますw
      古い車種を見ると、その当時の技術者の創意工夫が垣間見えて面白いです。
      これからも長く走ってもらえたら嬉しいですw

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